高周波増幅の異常発振対策方法

 高い周波数を増幅するアンプの増幅度を上げようとすると、アンプが発振してしまう事がある。
増幅出力の一部が入力側にフィードバックしてしまうのが原因である。
このフィードバックの比率で、その回路が安定に動作する利得上限が決まる。
 従って、高い利得を得ようとするならば、増幅回路の入出力間のアイソレーションを充分にしな
ければならない。
特にアンテナに接続する回路部は、使用時に公称値の50Ω負荷でない場合も多く、余裕のある設計
をしておかないと、不安定で使い物にならないという評価をされる時がある。
 このトラブルが有る時は、構造上の問題に絡む場合が多く、対策に苦労する事がある。
以下は、衛星用無線機に限らず一般的な無線通信機を設計・開発する時に参考になりそうな点を
まとめてみました。

 V・UHF帯以上では両面基板か多層基板を使い、基板の一層はGNDパターンで全面アースにする。
そして、増幅素子のコモン端子(GND端子またはエミッタ端子)は最短距離でGNDパターンに接続する。
GNDパターン迄の距離がどうしても近く出来ない場合は、出来るだけ幅広のパターンにする。
他層のGNDパターンに穴を通して接続するときは、複数の穴で繋ぐと効果がある。

入力側と出力側に同調コイルがある場合は、相互に結合しないように距離を置くかシールドする。
シールドしていないコイルは、お互いに90度の角度になる配置にして、結合を極力小さくする。
入力側と出力側の信号線ラインは、近づかないようにする。

 上記の対策が完全であっても、増幅素子の内部結合等で、フィードバックは無くならないから、
限界を見定めて、安定に動作する範囲の増幅度に抑えるようにする。
増幅度を抑えるには、適当な抵抗を入力側か出力側に追加して減衰させる。
受信高周波増幅では、入力側で減衰させるとNF(S/N)が劣化して、ストレートに感度が低下するから
出力側に抵抗を追加して感度が劣化しないように利得を下げる。
送信高周波電力増幅では、逆に入力側に抵抗を入れて利得を制限して、出力側は出来るだけ効率良く
動作させる。


受信高周波増幅の異常発振対策方法

 衛星用受信機でアンテナから入ってすぐに高周波増幅するトランジスタは2SC3356であるが、コレク
タ電流を充分流して入出力のインピーダンスマッチングをうまく合わせると利得は20dB程度取れる。
しかし、その状態にするとアンテナのSWRが良くない時や、アンテナが外れている時に異常発振する
現象が出て困ることがある。
 今回は、消費電流を少なくしなければならないので、3mA程度にコレクタ電流を抑えているから、
利得は少な目である。
それでも、アンテナの状態によっては、異常発振する場合が見受けられるので、コレクタへ直列に
発振止めの抵抗(R2,150Ω)を入れて、感度が悪くならない程度に利得を下げて安定化した。
 高周波増幅段は、アンテナが異常であっても、この異常発振を起こさないようにする事が重要で、
この制約が、ここでの利得決定において大きい要素になる。これは事前の計算が難しい。
部品配置・基板パターン等の影響が大きく、実績による経験と勘に頼るところである。
つまり、増幅素子の能力より、かなり低めの利得に下げて使用しないと不安定になる場合が多く、
前後に接続される回路の状態で最適値は変わってくる。今回のは、約10dBの利得と推定される。
もっと高い利得が必要であれば、もう一段増幅回路を追加する。

異常発振に対する余裕度を見るには、アンテナ入力端子にスペアナを接続して、同調回路の調整を
ずらしてみて、スペアナに異常発振波形が現れないかチェックする。
他の方法としては、スペアナにアンテナを付けて、高周波増幅回路付近に近づけておき、受信機の
アンテナを外して異常発振波形が出ないか確認する。
50Ω負荷では異常発振しないが、SWRの悪いアンテナを接続すると異常発振する場合があって、不要
輻射や感度低下の原因になるから注意する。


送信高周波電力増幅の異常発振対策方法

 送信時も50Ω負荷では異常発振しないがSWRの悪いアンテナを接続すると異常発振する場合がある。
不要輻射で他の無線通信に重大な妨害電波を発射してしまいかねないから、特に注意が必要。

 送信電力増幅で、よく見られるのは、電力増幅素子のコモン端子が最短距離でGNDに接続されてい
ない事による異常発振がある。
パワーモジュールの場合、放熱フィンがコモンGND端子であるが、入力回路のGNDパターンとは最短
距離でしっかりと面接続させる。(細い線で接続しただけでは効果が少ない)
 プラスチックパッケージのパワーモジュール表面は、シールドされていない物が多い。
前段の増幅回路に近づくと、強い送信高周波がパワーモジュールから輻射されて、フィードバック
する事があるから、パワーモジュールをシールド板で包むと良い場合がある。

電力増幅トランジスタの場合も同様に、GNDとは最短距離に接続出来るように基板設計する。

 異常発振が収まらない場合は、入力側に抵抗を入れて安定化させる。
効率が大きく低下しない範囲で出力側マッチング回路やLPFの定数を変えて安定な組合せを探る。
具体的な方法は、空芯コイルの巻線ピッチを引き延ばしてみたり、調整ドライバーの先端に付いて
いる金属片を接触させてみて、良い方向に変化するのか悪い方向に変化するか見極めて、素子を
変える方向を見極めて、最良の組合せを決めていく。
無線機の製品で、空芯コイルが不自然に変形している場合があるが、こういった調整の結果である
ので、見苦しいからと言って形を整えたりすると、動作が異常になったりする。
 低温(0℃以下)で異常発振し易い傾向があるから、早めに一度温度試験を行うようにする。
温度が低くなると、利得が上がったり、マッチングがずれる為である。

 1/2の周波数成分を電力増幅段で生成してしまう現象が希に見られる。(1/3の時もある)
常温においても、入力信号が強すぎたり、低い周波数の利得が高い回路構成の時に見られるが、
分周回路でもないのに、半分の周波数成分を作り出してくれるので困る。
2逓倍している回路の場合は基本波が漏れているのかと勘違いして、前段のフィルタ特性をシャープ
にする検討を延々と行っても、さっぱり良くならず悩んでしまう。
対策は、ドライブレベルを大きくしすぎないようにする事と、目的の周波数以外では利得が大きく
ならないようにする。
電源ラインや送受切替回路から前段アンプに回り込んで、異常発振する事もあるから要注意。

 異常発振に対する安定度を確認するには、ホイップアンテナを接続してスチール製の机上に置き
連続送信しながらアンテナの角度を徐々に変えて、机に倒していく。
近くに別のアンテナを付けたスペアナを置いて、どの角度で異常発振が発生するかモニターする。
どの角度においても異常発振しなければまず問題ないと判定して良い。
 アンテナを机に倒しきった状態に近いところでのみ発振する程度であれば、通常の使用状態では
問題無いと思われる。(装置を使用する条件によって判定が変わる)
使用条件で、アンテナのSWRが1に近いことを保証されている場合は、この実験は省略しても良いが
常温でこの試験をして余裕がある状態にしておけば、温度試験でのトラブルが少なくなる。

 アンテナを実装して送信試験をするときは高出力(1W以上)の場合、目を痛める可能性があるから
送信アンテナに目を近づけないようにする事。(電子レンジで目玉焼きするようなもの)
10Wくらい以上では、送信時間を1分以内程度に限定して、間を置きながら行う等の配慮が必要。
またアンテナに直接触ると火傷をするから注意。

なんとも泥臭い作業であるが、実用的な無線機に仕上げるための1つのノウハウである。
50Ωでないダミー抵抗を負荷にして、間に可変長同軸管を入れて全位相の回転に対する安定度を、
定量的に比較出来るが、アンテナからの輻射による高周波回り込みも考慮すると、実際に使用され
る格好に近い形での試験を行っておくのが良い。

 アンテナ出力端に反射検出回路を付けて、SWRが大きい場合は送信出力を下げてしまう方法が、
よく行われるが、送信の異常発振に対して効果的である。
この場合は、アンテナをよく調整しておかないと送信出力が大幅に低下する事がある。
 スペースに余裕があれば、基板パターンでSWR検出回路を作る。
小さく作る時は、π型LPFの2点で電圧検出して、制御する方法がある。

アンテナのSWRが悪くても、反射電力を吸収して常にSWR=1.0に見せかけてくれるサーキュレータ
を使うと、アンテナ異常による送信機の動作異常は無くなるが、大出力では高価で質量も大きい。













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-----編集責任者:西 裕治 (Ji3CKA)-----